第10章 脳みそ溶けるかと思ったぐらいなんだから!
『あー…間違えました。そんな事よりも、蝋燭の上でクラッカーを発砲するのは よして下さい。
これに比べれば、インターホンで大きな声を出すなんてのは 些細な事でした』
「はーい」
勢い良く右手を上げて、返事をするお利口さんな百。それに対し、裏地が焦げてしまったジャケットを見て 私は意気消沈。
「…ごめんね?エリちゃんがオレの家に来てくれて、嬉しくて…。びっくりさせたかったんだ」
百は、沈んだ私を見て しょんぼりしてしまう。そんな彼にはわざわざ言わないが、ある意味ではとてもびっくりさせてもらった。
『もういいんですよ。スーツの直し代 Re:vale宛に領収書切っていいですか?』
「任せて!何着でも買ったげるね!」
私が放った冗談に、彼は満面の笑みで答える。
とりあえず、廊下に並んでいるキャンドルの火は全部消して行く。
そうして辿り着いたリビングにも、キャンドルの火がユラユラと揺れていた。
『…凄い数の蝋燭ですね』
「へへ、買い占めちゃった♡でもエリちゃーん、お願いだから キャンドルって言ってくれない?」
フニャッと笑う百の笑顔は、とても可愛い。
それにしても…どうして彼は、私にここまでの手間をかけるのだろう。部屋中を覆い尽くすほどのキャンドルを買って。私を驚かせたいと思考を重ねる。
ただの、取引相手に過ぎないというのに。
『…百さん。早速なんですけど、』
「あのね、オレエリちゃんに言おうと思ってたんだけど」
私が取り引きの内容を確認しようと口を開くと、それに被せるように百は口を開いた。
「取り引き、とかさ。そういうのやめない?」
『…どういう事ですか』
私は思わず声に怒気を滲ませてしまう。だって、ここまで呼びつけておいて。今更 取り引きは無し?一体どういうつもりなのか。