第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
「でも、勝手にLioの曲歌っちまって良かったのか。あいつ、何かでこの事 知って怒ったりしないよな」
『怒りませんよ』
自信満々に断言する私に、彼は首を傾げた。しかし 実際にLioは怒っていないのだから、こう言う他ない。
「そもそも、版権どうのこうのは良かったのかよ」
『消えた人間の曲に、版権も何もないでしょう』あるとしたら、私にあるから問題ない
「いやあるだろ。っつーか、あいつのこと悪く言うな」
『言ってませんよ』面倒くさいな
やがて2人は、MAKAの楽屋へと戻ってくる。まさに、扉を叩こうとしている楽に声をかけた。
『楽、すみません。MAKAさんと2人で話がしたいので、少し時間もらえます?』
「駄目だ、お前いまキレてるだろ」
言って、呆れ顔を向けてくる楽。
これには正直驚いた。自分の気持ちを、完全に隠せていると思っていたからだ。
『……きれてませんよー』
「嘘つけ」
重ねた嘘が2秒でバレた。
ついに楽は、扉の前で仁王立ちしてしまった。どうあっても、楽屋内へ入れてくれる気はないらしい。
直接 話をつけたかったが、電話にしようか。
そう、諦めかけたその時だった。
扉が、中から勢い良く開けられたのだ。バン!と派手な音を立て、楽の背中にぶつかる。
「〜〜〜っ、!」
「ん??楽?何やってんの?そんなとこでうずくまってたら邪魔でしょー」
驚きと痛みからか、背に手を回して姿勢を低くした楽。彼をこんな目に合わせた張本人MAKAは、冷たく言い放った。
そして、すぐに視線を上げて私に向き合う。
「来ると思ってたわ。人払いは済ませてある。
さ、早く入って?
中崎春人くん?」