第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
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MAKAのステージは、大盛況のうちに幕を閉じた。大切な人だし、命の恩人と言っても過言でもないその人の成功。嬉しくないわけはない。しかし、素直に喜べない自分もいた。
隣を歩く楽は、私とは違って弾みに弾んでいた。ステージが終わるなり物販に並び、紙袋にいっぱいグッズを買い漁る。
その際、かなりの数の観客に声をかけられサインを求められた。もちろん彼は、快くペンを走らせた。
皆、本当に喜んで、握手を求めサインをせがむのだ。偶然とはいえ、素晴らしいアイドルと出逢えた事に運命的なものを感じているようだった。
人集りは出来てしまったものの、大きなトラブルになる事もなく。私達は、MAKAの楽屋へと続く道を行く。
「春人」
『何ですか』
「ありがとう。俺に、Lioの歌をうたわせてくれて」
『私の力じゃありません。この大きな箱で、貴方に歌う機会を与えたのはMAKAさんじゃないですか』
「ステージの大きい小さいを言ってるんじゃない。最高に気持ち良くて、幸せだった。
だから、ありがとう」
『……ふふ。もっと褒めていいですよ。過去に一度 聴いただけの曲を、さらりとこの大舞台で弾けてしまう私の優秀さを』
「自分で言わなけりゃ、もっと優秀なのにな。
でもまぁ、正直驚いたよ。お前がLioのdramaticを楽譜なしで演奏出来た事も、咄嗟に俺用で3つキーを下げて弾いた事も」
『楽…残念です』
「??」
『下げたキーは2つですよ』
「細けえな相変わらず!もう褒めねぇ!」
これ以上、褒められると心苦しい。
あの曲を奏でるのも、咄嗟にアレンジするのも、私にとっては容易い。何故なら、あれは私の曲なのだから。
私ははぐらかすように、人差し指と中指を立て 数字の2を作って、楽に向けた。