第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
心の迷いは、必ず歌に滲み出る。
だから、分かる。
楽に迷いなど、何もない。
彼は、一切の躊躇や迷いなどなく。
ただLioを。私を
愛している。
《 Excellent 》
舞台袖に姿を隠していたMAKAが、小さく呟いた。
演奏席に座る私と、歌い終わったばかりの楽は、客席に向かって頭を下げた。
すると、止まっていた時が動き出したように、観客達が歓声と拍手をくれる。
私達は 互いに視線を通わせる事なく、ただ観客に向けて笑顔を浮かべ、手を振った。
《 四季 》
《 フィリップ。ふふ、どうだった?見ていたでしょう?2人の見事な綱渡り!》
《 あぁ。見事だったよ。どうして君が、あの2人をくっつけたがるのか。ようやく僕にも理解出来た 》
《 でしょう?私には、分かるの。2人とも、私の大切な人達だから!
エリと楽は、きっと素敵なカップルになる 》
《 だろうね!あの2人の間には、何か簡単には言い表せない絆を感じるよ 》
《 …Love does not consist in gazing at each other, but in looking together in the same direction 》*1
(愛はお互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである)
《 まさに、あの2人のようだね 》
《 えぇ。2人は歌が終わった後、お互いに視線を合わす事をせず。観客席だけを見ていたでしょ?
やっぱり、あの子達はとっくに愛し合ってると思うのよ!なのに…!もう!もどかしいったらないわ! 》
《 はは。まぁ、愛には色々な形があるからね。
ほら四季、今度は君の番だよ。ファン達が、MAKAを待っている 》
《 そうね!行ってくる。
あんなに素敵な歌を聴かせてもらったんだもの。私も負けてられないから! 》
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*1
フランスの作家、サン=テグジュペリの格言