第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
八乙女宗助の。楽の父親のゴーがない限り、ここでは歌えないのだ。それは、業界の常識。こんな簡単な利権問題など、楽も重々承知していたはずだ。
が。まざまざと現実を突き付けられて、ほんの僅かだが眉間に皺を寄せた。
そして…結局、どうしたら良いのか解決策を見出せないまま、私達はステージの上に立つ事となる。
《 やっと来たわね!
どう?覚悟は、決まった? 》
《 はは。やってくれたな、MAKA。こんなに度肝を抜かれたサプライズは、なかなかないぜ 》
楽は渡されたマイクを手に、何とか英語で切り返す。彼らがMCで繋いでいる間も、私は頭をフル回転させる。
ステージに設置されたピアノを見つめて、考える。私は、楽にどの曲を歌ってもらえばいい?やはり、許可はなくてもTRIGGERの曲を披露すべきか?
いや。TRIGGERの曲は、どれも “ 3人 ” 揃っていてこそ真価を発揮するものばかりだ。楽ならソロでも立派に歌い上げてくれるとは思うが、この会場にいる観客を満足させられるパフォーマンスが出来るかまでは分からない。まして、用意されているのはピアノ1台のみ。むしろそちらの方が問題だ。
考えろ…
バックミュージックには頼れない。コンビネーションが命のダンスも踊れない。3人が歌う前提で作られた曲も使えない。
『……!』
懸命に考えた末。私の頭には、1つの解決策が浮かんだ。
その導き出した答えは、間違いなく最適解だ。だが、私にとってはそうとは言えないものだった。
でも…やるしかないのだろう。
覚悟を決めてMAKAを見る。すると彼女は、挑発的な笑みを私に返すのだった。