第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
たっぷりと勉強させてもらった私達は、MAKAに用意してもらった席にいた。
ここは、レベル100の座席の中でも さらに良い席だった。ステージから最も近い最前列。まだ始まってもいないのに、流れてくるBGMのウーハーが心の臓に響く。
私は、目の前のステージを見上げて楽に語り掛ける。
『いよいよですね!』
「…なんだって!?」
彼に聞こえるよう、なるべく声を張ったつもりだったが。どうやら声量が足りなかったらしい。
ボルテージの上がり切った観客達の歓声。最前列特有の、大き過ぎるくらいのBGM。それらに負けないよう、楽に声を届けなくては。
私は、彼の耳に唇が触れてしまうのではというところまで、距離を詰める。
『楽しみですね!』
「あぁ!いよいよだな!」
にこっと微笑み合って、私達は改めてステージを見上げる。あと少しすれば、このステージでMAKAが踊る。
彼女のダンスを生で、しかもこんなに近くで見られるのは本当に久しぶりだ。
無給でいいから、バックダンサーとして使ってくれと申し出た過去がある私。それくらいには、彼女のダンスに心酔していた。
そんなMAKAの生ステージが、これから見られる。心が踊らないはずがなかった。
しかし。私にはひとつ気になる事があった。
おそらくだが、楽も同じ事を気にしている。何故なら、彼も私と同じ箇所を見つめていたから。
そこには、一台のピアノが置かれていたのだ。彼女のレパートリーの中に、ピアノの音色と共にしっとりと踊る。そんなダンスはなかったはずだ。それとも、そういう類のものが今日、蔵出しされるのだろうか?
まぁ、今いくら考えたとしても答えなど出ない。ここで待っていれば、自ずと分かることだ。