第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
「でも今の楽には、運が向いて来てるわよ!」
「そう思うか?」
「思う思う!もしかすると、愛しの人は意外と近くに居ちゃったりして!んでもって、案外 簡単に会えちゃったりして〜っ!」
『ちょ、』
「お前にそう言われると、なんだか本当にそうなりそうな気がしてくるよ」
「ふふ!きっと会えるわよ。だって、楽の愛は凄いもの!
エリがLioだってこと知らないで、エリを好きになるなんて!もう超好きじゃな〜いっ♡」
「はは。だろ?超好きだぜ!」
『…はぁ』
2人のテンションが爆上がりしているのに対し、私の気分は落ち込んだ。
MAKAが、完全に悪ノリをしてしまっているからだ。彼女はきっと、楽の想いをわざと私に聞かせている。
どうして、そうまでして私と楽をくっつけたがるのだろうか…
『あの、MAKAさん。お願いがあるのですが』
「どうしたの?」
『せっかくロスの中でも最大級の会場に来たのです。ぜひその裏側や、リハの様子なんかを見学したいのですが』
「相変わらず、あんたは真面目ねぇ」
MAKAは言って、私の腕に、ペタリと何かを貼り付けた。見ると、それは バックステージパスシールであった。サテン生地のシールが、サラリと光る。
「これで、会場内どこにだって行けるから!好きなだけ勉強して帰って」
『ありがとうございます。邪魔をしないように気を付けますね』
「はい、楽にも〜♪」
MAKAは、楽の額に同じシールを貼り付けた。
彼女の、こういった悪ふざけには慣れっ子なのであろう楽は。無言の真顔で、シールを額から腕へと移すのだった。
「ふふ。じゃ、私もそろそろリハに戻るわ。
次に会うのはステージの上ね!」
MAKAはそう締めくくり、私達は解散となった。
“ ステージの上 ”
この言葉を聞いた全ての人は、こう思うはずだ。
ステージの上に立っているのは、MAKAの方であると。
私と楽だって、当然のようにそう理解した。
誰が予想できただろうか。
まさかこの後、ロスの会場、17500人の前でTRIGGERの八乙女楽が歌唱する事になろうとは。