第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
「とにかく、私は楽の恋を応援する。楽は私の大切な友達だから。幸せになって欲しいのよ」
『先輩…』
「でも、私はあんたの先輩でもあるから、エリを裏切る事も出来ない…」
そうだ。考えれば、MAKAには酷な事をお願いしている。
私からは、秘密を明かすなと頼まれ。
楽からは、秘密を明かせとせがまれる。
あちらを立てればこちらが立たず。こちらを立てればあちらが立たず。まさに板挟みだ。
「だから、これ以上の秘密は漏らさない。それは約束する」
『…はい、それで十分です。ご迷惑をおかけして、すみません』
「ふふ。いいのよ」
(でも、小細工はさせてもらう!吊り橋なんて、やっぱり生温いわ!それこそ、綱渡りくらいの境地に2人して立ってもらわなきゃ。恋になんて発展しない!
楽…頑張るのよ。私が最高にスリリングなイベント、用意してあげるからね!)
まさかMAKAが、心の中でそんな策略を企てているとは知らぬ私。申し訳ない気持ちで胸をいっぱいにして、ただただ彼女に頭を下げるのであった。
そうこうしていると、幾分かは落ち着いた様子の楽が帰って来た。
「ちょっと楽、大丈夫?」
「平気だ。少し落ち着いた」
楽は、自分の胸に手をやって頷いた。もしかするとさっきまで彼の心臓は、動揺からうるさく暴れていたのかもしれない。
MAKAは、そんな彼に優しく語り掛ける。
「いきなり真実を知っちゃって、びっくりしたのかもしれないけど。どちらかといえば、良かったじゃない!好きな人に一歩近付けたって前向きに捉えれば!」
「…まぁ、そうだよな。今では、Lioの本名すら掴めてなかったわけだから。
っつーか!お前も春人も、エリと友達なんだろ!どっちでもいいから、いい加減 俺にあいつの居場所教えてくれてもいいだろ!」
「ふふ。どうしよっかなー」
「はぁ…もういいよ。どうあっても口を割らねぇんだから。こうなったら、自力でエリを見つけてやる!」
彼女に励まされ、楽の顔が晴れやかな表情に変わっていく。私は、これ以上MAKAが余計な事を口にしませんようにと、信じてもない神に祈る。