第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
「じゃあどうして楽は、エリの存在を知って、さらに彼女を探してるの?」
「…何度か、会った」
「!!
会った…? へぇ〜…エリ、楽の前に姿を現したんだぁ」
ニヤニヤと、意味有りげな笑みをこちらに向けてくるMAKA。とてつもなく不愉快だが、今はそれどころではない。
非常に、厄介な事になってしまった。
「エリが…Lio、だったのか。雰囲気が、どことなく似てるとは思ってたけど…まさか。
…そうか。俺は、知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな」
楽は、エリとLioが同一であると気付いていなかった。
MAKAの楽屋で会った私を、エリだと認識出来ていなかったのだ。
ステージ用に施された濃ゆい化粧のせいか。はたまた、5年という長い月日が記憶を曖昧にさせていたのかは定かでないが。
とにかく、せっかく誤魔化し続けて来たのに…
ここにきて、エリとLioが結び付いてしまった。なんとしても、被害をここで食い止めなければ。
エリと春人を。Lioと春人を。同一人物だと悟られる訳にはいかない!
「は…!待てよ。じゃあエリの方は、俺を知ってたってことだよな。初めてエリとデートをした時、どうして 何も言ってくれなかったんだ」
『忘れてたんじゃないですか?』
「ちょっ、あんた鬼なの!?
忘れてないわよ!楽っ、大丈夫!あんたみたいなイケメンが、簡単に忘れ去られるわけないでしょ!?自信持ちな!」
「………自信が、微塵も湧いて来ない…」
『楽。もうこうなったら、エリさんの事もLioの事も、スパッと諦めましょう』
「ちょっと!!あんた…えっと、今は春人、だっけ?これ以上、楽を凹ませないでよ!」
MAKAは、まだ呼び慣れぬ私の新しい名を懸命に叫ぶ。
「おい、春人…。あんたは、知ってたのか…?エリとLioが、同じ奴だってこと」
『……え、えぇー?まさかー。そんなの、超知りませんでしたよー。驚きですよねー』
「そうか…知らなかったのは、俺だけかよ…」
楽は、さらにガックリと項垂れた。