第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
「ハーーイ!ワタシのナマエは、フィリップ言います!アナタのナマエは、ガクですか?」
『……Is your name Bob?』
「フィリップだっつってんだろ。諦めろよ」
「ハハハ!ガクはオモシロでーす!ワタシ、ボブないでーす」
「楽は俺の方なんだ。こっちのは春人。
俺の名前を知ってるってことは…もしかしてあんた、MAKAに言われて俺達を迎えに来てくれたのか?」
「イエス!あえてヨカッタです!くるま、そこにありまーす」
どうやら、彼はMAKAの遣いだったらしい。私達は、彼の運転でThe Forumへと向かう。
車内でも、彼の軽快なトークは止まらない。かなりの日本通らしく、日本人である私達に会えた事が嬉しくて堪らないらしい。
ハンドルを握りながらも、日本に関する質問を矢継ぎ早にぶつけてきた。
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The Forum。空港から程近くに立つそれは、やはりデカイ。規模が違う。
それに、まだ開場までは数時間あるのにホワイエは熱気に包まれていた。皆一様に、MAKAのステージを心待ちにしているのだろう。
フィリップと共に、関係者入り口から中に入る。屋内では、既にリハーサルが行われていた。
高い天井が音を吸い上げ、音楽が豊かに鳴り響いていた。
激しい炎柱が上がり、いたる所から照明が伸び、音が自由に唸る。
『こんなステージで歌えたら…さぞかし気持ちが良いでしょうね』
「あぁ。TRIGGER初の海外コンサートは、こういう場所がいいな」
私と楽は、ステージの中央で舞い踊るMAKAを見つめながら、いつか来たるその日を夢見て呟いた。