第76章 知らず知らずの内に、同じ女に惚れていたんだな
「でも、あんたも高いところが怖いんだな」
そう言った楽は、途端に優しい顔付きに変わる。その表情から、いま彼が誰を思い描いているのか、想像に容易い。
「共通点が、本当に多いんだよ。雰囲気も、顔も声も似てるし、名字も同じって。凄くないかこれ?」
『……』
それだけ共通点に気付いていながら、春人とエリを結び付けられない楽の方が凄い。
なんて、まさか口にする訳もなく。
『そろそろ、休みましょうかね』
「おう。寝ちまえ寝ちまえ」
言うと楽は、私の頭をぐいっと引き付ける。そして自分の肩口に乗っけると、自分は手元で雑誌を開いた。
『……えっと、これは…』
「こうしてた方が、怖くねぇだろ?
それに、俺も寝る時はお前の頭を枕にするから ちょうどいいしな」
『ふふ。抱かれたい男No.1の肩枕ですか。これは、緊張してしまって睡眠どころではありませんね』
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『すぅ』
「とか言ってたくせに。10分もしない内に、ぐうすか寝やがって」
私が楽の肩を借りて、すやすやと寝息を立て始めた頃。CAが私達の元へとやって来る。
「お客様。何かお飲み物でも、お持ち致しましょうか?」
楽は、緩やかに首を左右に振る。そして、眠りについたばかりの私を一瞥。
その後に、再びCAの顔を見上げて…。自らの唇に、とん と人差し指を当て、微笑みを浮かべた。
その飛び切り優しい表情を受け、彼女の心臓が撃ち抜かれたのは、言うまでもない…