第10章 脳みそ溶けるかと思ったぐらいなんだから!
『そうです。しっかりと、そうやって前だけ見据えていて下さい。貴方が 背中丸めて俯いて歩く姿なんて、私は見たくありません』
もうそこには、さっきまでの龍之介はいなかった。ここに立っているのは、いつもの格好良いTRIGGERの十龍之介だった。
『もし貴方が、気にしなくて良い事を気にして。今日 良い撮影が出来なかったら その時は、本当に怒りますからね』
「…うん。大丈夫だ。春人くん、ありがとう!」
『大体、あんなしょっぱい雑誌の情報を間に受けて あれやこれや妄想する人間なんていうのは、ただの欲求不満です!
作られた一場面だけを見て、想像で話を膨らませる…まったく、本当に世も末で』
後ろから、私の口をガッと抑えたのは楽。
「おっんまえ…!ちょっとは声抑えろ!」
「っ、ほら 早く行くよ」
そう言って背中を押すのは天。
「っ…はは、あはは!」
さっきまでとは打って変わって 大きな声で笑う龍之介は、腹を抱えて私達の後を付いてくる。
周りに人が居なくなったのを確認してから、彼らはまた口を開く。
「お前な、もうちょっと言葉選べ!」
「まったく…キミのせいでヒヤヒヤしたよ」
「っくく、…欲求不満…」
天と楽は、怒っているのにちょっと楽しそうだ。龍之介は言わずもがな。まだお腹を抱えて笑っている。
『……私は、本当の事しか言っていません』
再び廊下を歩き出して、彼らは言う。
「分かってる。ありがとうな」
「ボク達の代わりに、言いたい事言ってくれて」
「うん!なんだか少しスッキリしちゃった!」
あぁ。皆んな、本当に良い顔で笑っている。この分だと 今日の撮影は素晴らしいショットが撮れるに違いない。
私にそんな確信を抱かせるほど、TRIGGERの表情は清々しくて輝いていた。
やがて、目的の部屋に到着する。
ここでメイクとヘアセット、衣装を着せてもらう。フルセットで最低でも40分は時間を要するだろう。
担当の人達に、お願いします。と告げ、私は再び百と千の元へ向かう。