第10章 脳みそ溶けるかと思ったぐらいなんだから!
天と控え室に戻り、楽と龍之介と合流。その後すぐに全員でメイクルームへ向かう。
廊下を歩きながら、手持ちのバインダーに挟んだ資料に視線を落とし、彼らに確認事項を伝える。
『今回の撮影イメージは、西洋をモチーフとした 騎士のような 凛々しい戦う男です。衣装も重たくてカチっとした物が多いみたいですね。衣装チェンジは1人4回あります。脱ぎ着するのも大変そうな衣装なので、少し時間がかかるかもしれ……』
廊下を歩く私達を包んだ、大きな違和感。
いつもとは明らかに、向けられている視線の種類が違う。すれ違う人々の目線のほとんどは龍之介に向けられており。彼は好奇の目に晒されているのだ。
「…いやな感じ」
「あからさまだな。全く…手のひら返したみたいに豹変しやがって」
天と楽は、ぶつけようのない怒りを小さな言葉に変える。
「…………」
龍之介は、歩くスピードこそ変えないが 視線を落とし、その表情は曇ってしまっている。
『……』
私は、そんな彼の背中を バインダーで思いっきりぶっ叩く。
バァン!と派手な音が廊下に響いた。
「な、なに!?春人くん!?怒ってる!?」
『私が何を怒るっていうんですか。まったく…
いいですか?貴方は何も悪くない!だからもっと堂々としてて下さい!』
ぽかんとする天と楽。そんな2人を置き去りに、私は立ち止まった龍之介に言葉を続ける。
『ほら、背筋伸ばして』
私が言った瞬間、龍之介はピンと姿勢を正す。
『前を向いて、顎を引いて』
「は、はい!」
戸惑いながらも彼は 私の言う通りに行動してくれる。