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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第75章 俺に、思い出をくれないか




万理から受け取った楽譜を、丁寧に膝の上に置く。
そして、両手で パン!と自分の両頬を叩いた。すぐさま頬は、じんじんと熱を持ち始める。
顔は痛いけど、心はシャッキリとした。


『〜〜〜っっ』

「え、エリ!?何やって」

『完全に八つ当たりした。ごめん、龍』

「いや、そんなの全く構わないよ」

『ウジウジするのは、もうやめる』

「…でも、言葉にするのは大切な事だと思う。
エリの中に、まだ少しでも澱(おり)があるなら、全部吐き出してしまうべきだ」


龍之介は、自分の胸に手を置いて 穏やかに告げる。

この気持ちを、龍之介に聞かせてしまっても良いものかと しばし思考する。

考えた結果、素直に従う事にした。
万理への想いを、後に残さない為に。


『万理は、初めて出来た彼氏だったんだ』

「うん」

『だからきっと、いつまで経っても 彼は、私の中で特別だったんだろうね。
10年経っても、万理がまだ私を想ってくれてたんだって知って…
ほんのちょっと、甘い考えが過っちゃったの。

また、恋人同士になれば…今度こそ上手くやっていけるんじゃないかって』

「…実際、そういう選択肢も ありだと思う。
エリは、大神さんとよりを戻しても良いんじゃないか?」

『ううん。それじゃ、駄目なんだよ…龍。
だって、私が また彼と恋人になりたいと思うのって… 万理を愛してるからじゃない。

10年もの間、万理を傷付け続けた償いと。
ただ…幸せだった過去に、戻りたいってだけなんだ』


それじゃ、私は前に進めない。

未来に待つ、まだ見ぬ幸せを追いかけぬまま。
過去に縋るような道を選ぶわけには、いかない。


「エリは…それで後悔しない?
俺は、君の幸せを心から願うよ。今ならまだ間に合う。大神さんを選ぶことも出来」

『ううん。いいの。きっとこの選択が正しい。
もう…間違うわけには、いかないから。

私には、追いかけたい人がいるんだ』

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