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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第75章 俺に、思い出をくれないか




『ふ、ふふ…っ!あははっ!』

「……」

『ちょっと待って、本当に あんな場所で、何十分も じっと固まって隠れてたの?』

「…エリ」

『あはは、信じられない!そりゃ足も痺れるよ!』

「エリ。
無理に、笑わなくていいんだ」


心の底から、私を労わるような声色で 龍之介はぽつりと言った。

でも今の私には、人の優しさを真正面から受け止めて、さらに優しさを投げ返す心の余裕がない。


『…知ったようなこと、言わないでよ。
無理にでも、笑ってないと 胸が…痛くて、痛くて…どうにかなりそうなの』

「うん。辛いし、しんどいよね。俺にも、少しだけ分かるよ。
人の好意を受け止めてあげられないのって、苦しい。
出来るなら、自分に向けてもらえた愛情の全部に、報いたいよね。

俺は知ってるよ。
愛情を傾ける事の、甘さも 辛さも。
そして、それを断ち切られた人と同じくらいの傷を、断ち切る側も負うんだ」


まるで自身ががナイフで、心を斬り付けられたような顔をして龍之介は語る。

その言葉を聞いて、顔を見て。私は はっとした。

そう。私の目の前にいる男は、アイドルなのだ。
アイドルとしての彼は、日々 不特定多数の人間に、数多の愛情を向けられる。
当然、その全てに応える事など出来ないのだ。

そして心の優しい龍之介は、その事にいちいち心を砕いているに違いない。


それに気付いた途端、私は自分が恥ずかしくなった。

龍之介は気丈に戦っているというのに、私はどうだ。

万理から受け取った愛情を、返してあげられないからと嘆き悲しみ。あまつさえ心配してくれた龍之介に八つ当たりをして。

情け無いったらないではないか。

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