第75章 俺に、思い出をくれないか
『なんで…っ、どうして 未だに私の事をそんなふうに想ってくれるの?分からない…!
私は万理を傷付けたのに!これでもかってほど傷付けたのに!
10年以上も 辛い思いをさせてしまった…
本当に…私の事なんて、いっそ無かった事にしてしまえば良かったのに…忘れてしまえば…よかったのに』
「たかが、10年だ。長い長い人生の内の、たった10年。
それに、忘れてしまえばよかったなんて…そんな、悲しいこと言うなよ。
エリと別れてからの この10年。辛い事だけじゃなかったさ。たとえ、側にいなかったとしても。君は、俺の心の支えだったよ。
だから…ありがとう。エリ」
切なくて、胸が痛くて、息が苦しい。
それでも、私も言葉を紡がなくては。
万理は、気持ちをしっかり伝えてくれたのだから、私もそれに応えなくてはいけない。
本当なら10年前に伝えておくべきだった言葉。
伝えたかった、私の本当の想い。
『万理は、私に何度も言ってくれたけど…私は、恥ずかしくて ただの一度も言えなかった。ごめん…!随分と、遅くなっちゃったけど 私…
万理が、大好きだったよ!本当に、本当に好きだった…!』
「……エリ。
うん。ありがとう」
10年前の私達は、本気で 全力で恋をしていた。
互いを心の底から、愛していた。
彼と過ごした青春は、甘くて 苦くもあったけど。そのどれもが大切な思い出で。掛け替えのない宝物。紛れもなく、幸せな時間だった。
ほんの少し気を抜けば、また あの幸せな日々に戻れるのではないか?と、心が万理を求めてしまう。
『万理、もし私があの時…』
そこまで言ってから、はっと我に返った。
一体、私は今 何を口走ろうとしているのか。
もしもあの時。私が “ 待っていて ” と言えていれば。
“ 私が立派なアイドルになるまで、待っていて欲しい ” と、もし告げていたなら。
もしかすると私達はまだ今も…
馬鹿だ。こんな事、万理に言っていいわけがない。聞かせていいはずがない。だって、答えがどうであれ 私達はもう…