第75章 俺に、思い出をくれないか
「エリ。昔も一度 言ったけど、もう一度言う。
好きだよ。どうか俺の、恋人になってくれませんか」
『はい』
「!!
はは。即答か…」
万理が紡いだ愛の言葉は、10年前と全く同じもので。
目を閉じれば、寸分違わず当時を思い起こす事が出来る。
屋上で見た花火に、火薬の匂い。遠くから聞こえてくる、人々の喧騒。それに、万理の真剣な表情も。
私も、当時と同じ答えを万理に返した。
「そういう、無駄に律儀なところも変わってないなぁ。懐かしいよ、本当に。
エリが また恋人に戻ろうと思ったのは、俺の事が好きだからじゃない」
『……』
「躊躇なくイエスと言ったのは…俺を傷付けた、罪滅ぼし。
どうだ?図星だろ」
呆れたように、乾いた笑いをこぼす万理。
何も言えない私に、彼はさらに続ける。
「もし俺が悪い男だったら、それでもいいからって 強引に元サヤに戻るところだ。
駄目じゃないか。
お前、好きな男がちゃんといるんだろ?」
『……気付いてたの?』
「見てれば分かる。
悔しいけど、彼は良い男だよ。
はは。エリは、昔から男を見る目だけはあるよな」
万理は、俯く私を元気付けるように、明るく努めているようだった。
『万理だって、良い男だよ。昔も そうだったけど、時間が経ってもっと良い男になった。
格好良く…なったね』
「そうか?もしそう見えるなら、街中でエリとすれ違っても、目を引いて気付いてもらえるようにだろうな」
『髪だって…伸びた。どうして伸ばそうと思ったの?』
「お前が俺の髪を、綺麗だって言ったから」
『…髪だけじゃなく、背も伸びて…大きくなったね』
「大きく強くなれば、どんな物からもエリを守ってやれるだろ?」
『声も、昔より低くて…もっと素敵になったね』
「君に、俺が作った愛の歌をうたえるように…」
瞳に涙が溜まっていくのを悟られないよう、私は顔を両手で覆って下を向く。