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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第75章 俺に、思い出をくれないか




「大神さん、もっと聞かせて下さいよ。昔のこいつの、面白い話!」

「ちょ、ちょっと楽!もうそれくらいにしておいた方が…」
(あぁ…っ。ついに 好きな子の元彼に、エピソードをせがんじゃったよ)

「あはは。いいですよ」

『なにも良くないですよ!』

「こいつ、目薬さすのが苦手で。絶対に口とか開いちゃうし、一生懸命狙いを定めてるのに、高確率で眼球から外すんですよね。それがもう、見てて可笑しくて可笑しくて」

「はははっ!器用なくせして何でだよ!」おもしれぇ


堪らず両手で顔を覆う私。天と龍之介が、ジト目を向けて来る。


「ボク、その話は知らないんだけど」

「…俺も」

『な、何ですか。その不服そうな顔は。わざわざ言わないでしょう普通!そんな恥ずかしいこと!』


上機嫌な楽は、瞳に溜まった涙を指先で拭いながら言う。


「はぁ…笑った…!
春人も面白いけど、大神さんも面白いな!」

「が、楽…!」
(あぁ…っ。ついに 好きな子の元彼と、肩組んじゃったよ)

「はは。昔話、楽しんでもらえて良かったです。えっと、他には何があったかな…」


これ以上の辱め、もう耐えらない。この場から走り去ってしまいたい衝動に駆られた私。ばっ!と万理に背を向ける。

そんな私に、彼は真剣な声色で問う。


「また、逃げるのか。俺から」

『……っ』


そのあまりに悲痛な問い掛けに、私の体は硬直する。

小さく溜息を吐いた後、万理は再び口を開く。今度は、さきほどとは打って変わって明るい口調で。


「まぁ、いいさ。それなら、こっちにも考えがある」

『か、考えって』

「お前の、もっと恥ずかしい秘密を暴露してや」

『今すぐ貴方と2人きりで話がしたいです!はい、今すぐに!!』


にやりと笑った万理を見て、私はついに白旗を上げる。
これ以上、3人に要らぬことを吹き込まれては堪らない!

明らかにいつもと様子が違う私を見て、不思議がる楽。心配そうな天と龍之介。
私はそんな彼らに、言葉を残す。


『と、いうわけで…私は急用が出来ました。
送迎は姉鷺さんにお願いするので、貴方達はこちらで待機していて下さい』


了承してくれた3人を残して、私は万理の腕を掴んで歩き出すのだった。

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