第75章 俺に、思い出をくれないか
「前に、何かの雑誌で読んだ。元彼って、高確率で今彼に握手を求めるんだって」
『……誰が今彼ですって?』
「キミの今の彼氏はTRIGGERでしょ」
『あぁ。まぁ…そうかも』
「な、なるほど…だから大神さんは、TRIGGERのリーダーである楽に握手を求めたんだね」
「ちなみに、元彼が今彼に握手を求めた場合、高確率で未練があるらしいよ」
『へぇー…』
その雑誌の信憑性はさて置いて。私は万理が元彼であると見抜かれた気恥ずかしさから、視線を泳がせる。
と。よくよく考えたら、私は楽の後ろでモジモジしていて良いのだろうか。
万理の言動を、しっかりと見張っておかなければならないのでは?
もしも彼が、何か余計な事を楽に吹き込みでもしたら…
そろりと万理の方へ目をやれば、彼はまた 真意の見えない笑顔を貼り付けた。
「…TRIGGERさんにはいつも、中崎さんがお世話になって。どうしても御礼が言いたくて、ここまで来てしまったんですよ」
「??
べつに世話してるつもりはねぇけどな…。でも、なんで大神さんが御礼を言うんですか」
「俺と彼は、実は古い付き合いなんですよ」
「へぇ!そうだったのか!
なんだよ春人。それならそうと、言ってくれればいいじゃねぇか!」
『え、あ…いや その…。わざわざ、言う必要も、ないかと思いまして』
私が言うと、万理は悲しげに瞳を伏せた。そして、こちらを真っ直ぐに捉えて告げる。
「…はぁ。つれないな。俺は、お前と2人で話がしたくて ここまで出向いたんだけど」
「口を挟んで申し訳ないですけど。話なら、べつに2人きりでする必要はないのでは?
ボク達が聞いていては、不都合のある話でもするおつもりなんですか」
歯切れの悪い私の代わりに、天はキッパリと言い放った。