第74章 高校生の時の、俺の彼女
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「おい春人。なにそんな急いでるんだよ。べつにケツがあるわけでもねぇのに」
『…べつに』
リハが終わり、本番も無事に撮り終えた。
私達4人は、共演者やスタッフ達との挨拶もそこそこに、一目散に事務所へ帰ろうと先を急いでいた。
もちろん、万理と顔を合わせるのを避けるためだ。天と龍之介は私の心境を察してくれているが、楽だけは不思議そうに顔を傾けた。
「楽。早く歩いてくれる?」
「なんだ、天まで。お前らなんかおかしいぞ」
「『…べつに』」
「ほ、ほら!2人は多分…えっと…
そう、お腹!お腹が空いてるんだよな!」
龍之介が咄嗟についた嘘が、あまりにも子供じみていて。私と天は顔を見合わせる。
しかし、この場を早く去れる理由付けになるのであれば、なんだってよかった。
『そうそう。そうなんです。お腹が空き過ぎて、今にも倒れてしまいそうなんですよ。だから一刻も早く帰りましょう』
「ボクも、眩暈がしてきた。早く何かカロリーを摂取しないと。気を抜いたら、子供みたいに地団駄を踏んで 日本語かどうかすら怪しい言語で叫び出してしまいそう」
「お、おう、そうか…」そんなお前は少し見てみたい気はするけどな
速やかに廊下を移動している最中 “ 彼 ” を見つけた。
真剣な面持ちで 顔を忙しなく左右に動かし、明らかに誰かを探しているふうだった。
私は、そんな彼から逃げるようにして、龍之介の大きな背中の後ろに隠れる。
背面に張り付き 身を小さくする私に、龍之介は悲しげな声をかける。
「…いいの?本当に、会わなくて。
大神さん、一生懸命 探してるみたいだけど」
『いいんです。私達は、きっと会うべきじゃない。
だから…すみません。このまま私を、隠していて下さい』
龍之介の背中で、きゅっと彼の服を握り込む。そんな私に、優しい龍之介は静かに頷いた。