第74章 高校生の時の、俺の彼女
『万理危ない!』
「え?」
ドカッ!!
「ガフっ!」
背後から蹴りを食らい、すっ転ぶ万理。
さきほどまで彼が立っていた場所に、倒れた照明が叩き付けられる。
ガチャーーンという尋常ではない音が、スタジオ内に響き渡った。
『ふぅ。危なかった。もう少しで、頭に直撃だった…
前にも照明で大怪我したんでしょう。もしかして、照明の類に呪われてるの?』
「呪われてるとか、言うなよ…。いやそれにしても、蹴り飛ばす事ないだろ!
……って、あれ。なんだ。この懐かしいやり取りは…。確か以前、どこかで…」
【37章 824ページ】
『……』
(あ、ヤバイ)
この一連のやり取りに、懐かしさを感じたのは私だけではなかったようだ。
2人の脳裏に、若かりし頃の記憶が蘇る。
「……え、エリ…?」
『……』
さて。この万理の放った核心的なワードに、私はどう答えたものか。とりあえず、一旦は顔を背ける。
「え…ちょ、なん…で。本当に」
「こら!!またお前か!!いつもいつも物壊しやがって!!その照明がいくらするか分かってんのか!いい加減に給料から天引きするぞ!!」
「ヒ、ヒィッ!す、すみません すみません!!」
「こいつがすみませんね、怪我ありませんか?!」
ADの彼には申し訳ないが、派手な怒声のおかげで助かった。とりあえずのところ、万理の追求は保留とされる。
騒然となった現場。リハは一旦ストップとなり、演者である5人もこちらへ駆け寄って来た。
「万理さん!大丈夫ですか?」
「おー…照明、すんげぇグチャグチャ…」
「俺は…平気だよ」
「うちのプロデューサーに助けられたね」
「助け方が常軌を逸してたけどな」
「春人くんは!?平気?」
『私も大丈夫です。何も問題ありませんよ』
誰も怪我をしなかったのだから、問題はない。
しかし、万理は私から1度足りとも視線を外すことはなかった。もう…誤魔化すのは無理だろうか。
さて。問題は山積みだ。