第10章 脳みそ溶けるかと思ったぐらいなんだから!
「春人ちゃんの可愛いところか…。それを語るには やっぱり…あの夜の事は外せない、かな?
君が僕の下で、ユキ、ユキって何度も名前を呼んで鳴く姿が可愛くて可愛くて…。毎夜 思い出しちゃうんだけど…次はいつ僕の隣で眠ってくれるのかな?」
…この、男はっ…!
「ぎゃー!ユキのエッチ!ハレンチー!」
「………」
天のこの呆れたような顔。いま千が言った事は 全て冗談だと思って疑っていないのだろう。まぁ普通に考えれば、誰だって真実だとは思うまい…。
千は、私がドギマギしている様子を見て楽しみたいだけだ!したがって…ここは、引いたら負けだ!
『…千さん、そんなに寂しかったんですか?泣きぼくろがある男性は寂しがり屋だというのは本当なのですね』
顎に手をあて、千を真っ直ぐに見つめて言い放つ。
「そうだよ。毎晩寂しくて堪らない。ベットが広く感じて寂しいんだ。そんなふうに思うようになったのは君のせい。だから責任取って 今夜は、僕の隣にいてくれない?」
『貴方なら、べつに私でなくても相手には事欠かないでしょう』
なんとか余裕の笑みを装う。降参してなるものか。
「以前まではそうだったんだけどね。でも今の僕は、君じゃなきゃ駄目みたい」
『……もうやめて下さいっ、』ガク
私の敗北だった。
「やった。僕の勝ち」
駄目だ。この甘いマスクで、蜂蜜くらいに高い糖度を誇る台詞を吐かれては。私に勝ち目はない。
そう。この人に抱かれた時点で、私の敗北は決まっていたのかもしれない。
「いやー、良い勝負だったねぇ。オレまだ心臓がドキドキしちゃってるよ!」
これ以上無いってくらいの 絶対零度の瞳になってしまっている天の背中を押して、とっととこの場を去ろうと試みる。
『さぁ九条さん、もう行きましょう。では失礼します』
私はドアを開けてから、くるりと後ろを振り返り “ 後でまた来ます ” と口パクをして 控え室を後にした。