第74章 高校生の時の、俺の彼女
あれは、私が彼へ贈ったもの。彼への曲と共に。
「…中崎さん?」
『あ…いえ、すみません。屈んだ時に、少し立ち眩みがしただけです』
「平気ですか?座ります?椅子を持って来ましょうか」
案じてくれる万理が、こちらの顔を覗き込む。
その時。リハ始めまーす!というディレクターの声が響く。素晴らしいタイミングのその声に、私はどうにか救われたのだった。
「MEZZO"の」
「「MOTTO"君を連れて逃げちゃい隊 」」
壮五と環が、馴染みのタイトルを、馴染みのモーション付きでコールした。
そんな2人を、私と万理はセットの側で見守る。
「今日は、外には行かねぇんだな」
「うん。本日は、スタジオからお送り致します」
「っつーか見て!俺の格好!スーツ!ちょーカッケーだろ?!」
「うん!凄く似合ってるよ、環くん。
僕達がいま着させてもらっているスーツは、あのブランドさんの新作なんですよ!」
「あのブランドって?」
「それが実は、あの有名な——」
概ね、台本通りに進行していく。
さきほどまで元気がなかった環だったが、心配はいらないようだ。
以前の彼ならば、落ちた気持ちを仕事に引きずってしまうこともあったかもしれない。
しかし、きっちりと気持ちを切り替えたのだろう。いつの間にか、大きく成長したようだ。
ライバルグループである彼の成長だが、私は素直に嬉しく思った。
「そんな、素晴らしいコラボ企画なわけですが…なんと!豪華ゲストにもお越し頂いています!
それでは早速、そのゲストさんをお呼びしたいと思います」
「TRIGGERーー!もう出て来ていいってー!」
「た、環くん!そんな大声で呼ばなくてもいいから!」
台本にはない、環の叫び声。
登場してから、ゲストがTRIGGERだと視聴者に認知される流れも、狂ってしまう。
しかし、この環の読めない言動も、この番組の面白いところではあるので良しとされる。