第74章 高校生の時の、俺の彼女
「TRIGGERさん、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「お、おう…こっちこそ」
「よ、よろしくね…」
「よろしく…」
壮五の丁寧な挨拶にも、まともに答えられないTRIGGER。それもそのはず。隣には、怪しい人の極みのような人物が立っているのだから。
こちらの事が気になり過ぎて、チラチラと確認してくる。
壮五も、遅れて ぎょっとした表情になる。
いつもなら私に飛び付いてくるほど元気な、環の声が聞こえないのが気になった。しかし今の私は、緊急事態への対処でいっぱいいっぱいだ。
ゆっくりと、こちらへ近付いてくる人の気配がした。
「TRIGGERの皆さん、よろしくお願いします。
あと…えっと、そちらの方は…プロデューサーさん で、間違いないですか?」
『……』
「否定したい気持ちでいっぱいだけど、まぁ そうっすね」
「い、いつもはこんな感じじゃないんですよ!今日は、ちょっと調子が…!そうっ、調子が悪いみたいで!」
「そ、そうですか。それは心配ですね…
そんな中で申し訳ないですけど、自己紹介をさせていただきますね。
はじめまして。小鳥遊事務所の、大神万理と申します」
差し出される名刺。私も、震える手でなんとか自分の名刺を差し出す。
そして それを渡し終えると、自分の喉を手でトントンしながら告げる。
『ハジメマシテ…ワタシ ハ、春人 ト イイマス』
「っ……」
そう。ワレワレハ ウチュウジンダ の、ノリである。これだけやれば、声で身バレする事はないだろう。
しかし、なんだろう…息が、呼吸が、すごく苦しい。なんだ、これは。まさか、元恋人を目の当たりにした衝撃で、心体に支障が…!
軽い目眩を覚えたところで、さきほどのスタッフが廊下の奥から叫ぶ。
「あっ、そうだ!春人さーん!そのお面、空気穴が空いてないんで、長時間着けると酸欠になるかもー!」
その言葉を、その場にいる全員が聞いたところで、改めて私を見る。
『……シュコーー シュコーー』
まるで、ダースベ●ダーのようになってしまった私を、冷たい12の瞳が見つめていた。