第74章 高校生の時の、俺の彼女
急いで顔を下に向ける。でも目線だけは上向けて、前髪の隙間から様子を伺った。
確認出来たのは、こちらへ歩み寄る3人の影。
環。壮五。そして、もう1人は…
『っ……っ!!』
間違いない。
私のよく知る、万理その人だ。
背が伸びてる、いや髪の方が伸びてる。万が千の元相方って!頭に照明が降って来たって何。あぁ、私のこと覚えてるだろうか。バレる?ヤバイ!!
頭に浮かぶのは、支離滅裂な言葉の羅列。冷静さなんて、パスポートを持って国外に飛んでいってしまった。
彼と最後に会ってから、もう10年以上が経つ。私の顔もそれなりに変わっているだろうし、なにより今は春人モードだ。普通に考えれば、気付かれる事はないだろう。
しかし、なんだ。この、どうしようもなく押し寄せる不安は。
私をよく知る 鋭い彼ならば、正体くらい いとも簡単に見抜いてしまうのではないかという、予感。
ぐるんと、体の向きを180度変える。突如として後ろを向いた私を見て、TRIGGERの面々は首を傾げた。
そんな事は御構い無しに、私はキョロキョロと辺りを見渡す。身を隠せそうな場所を探すが、何もない。
飛び込めるような部屋もなければ、死角になりそうな曲がり角もない。
焦る私の視界に飛び込んで来たのは、段ボール箱を運ぶ、見知ったスタッフの姿だけ。
しかし。その小道具を運ぶスタッフこそ、私の救いの神となる。
彼が持つ段ボール箱に乗っかっているのは、小道具の お面。私は、そのお面を引っ掴む。
「わ!びっくりしたー、春人さんじゃないですか。急に何す……」
彼は、躊躇なくお面を装着した私を見て息を飲んだ。
「そ、それ…そんなに気に入ったんなら、あげますよ。使わなくなったんで。でも、完全に怪しい人になってるって事だけは、伝えておきますね…」
まるで、どこかの部族が祭りの時に着けるような、木彫りのお面。この まるで呪われているかのようなデザインのお面が、私の唯一の救い。もう、神様から垂らされた一縷の糸に縋るような気持ちだ。
怪しい人に成り下がった私は、再び体を正面へ戻した。