第74章 高校生の時の、俺の彼女
『MEZZO"との共演は久しぶりですね』
「いや、こないだ歌番で一緒だったぜ。たしか あんたは別仕事で、付き人は姉鷺だった」
『そうでしたね。放送日が楽しみです』
「そういえば春人くんは、まだMEZZO"の新しいマネージャーさんに会ってないよね」
『そうなんですよ』
紡から、かなり優秀な人物という事は聞いている。会いたい会いたいと思っていると、これがどうして なかなか会えないものである。
「でもびっくりだよな…まさか旧Re:valeの片割れが、小鳥遊事務所で働いてたってんだから」
『えっ…、何ですかその話』
「プロデューサーは知らなかった?千さんが百さんと組んで、今の Re:valeの形になる前の話」
『その話は、少し聞いた事があります。
【38章 842ページ】
それで…千さんの元相方が、MEZZO"の現マネージャー。という事ですか?』
「そう」
『へぇ…どうして彼は、歌う事を辞めてマネージャーになっているのでしょう』
「あぁ、なんでも怪我のせいだと。ステージの途中で、照明が上から落っこちて来たらしい」
『…そうですか』
アイドルを続けたくても続けられない状況に陥り、裏方へ転身 か。
どこかで聞いたような話である。
「でも、本当にびっくりだよね。まさか身近に、元Re:valeの人がいたなんて」
『そうですね。世間は狭い、と言ったところでしょうか』
私は、他人事のように言った。
“ 世間は狭い ”
数秒後、自分がまさに その言葉の餌食になろうとも知らないで。
「だよな。でも、元アイドルって聞いて納得した。なんかオーラがあったんだよ。あの
大神万理って男」
私は、持っていた書類を全部落とした。
「だ、大丈夫?春人くん」
「何やってんだよ」
「…プロデューサー?」
落とした物を拾う事も、足を進める事も、瞬きさえも忘れてしまう。
直立不動。血の気が瞬時に引いていく。
楽はいま、なんと言った?
「あ、噂をすればだ!
前から来るの、MEZZO"とそのマネージャーさんだよ」
龍之介の無邪気な声が、ぐわんぐわんと頭に響いた。