第74章 高校生の時の、俺の彼女
壮五の所有する、ライブ音源。
10年前に、俺がもらったこの曲。
同じ曲ではあるが、後者の方はバラード調でメイン楽器はピアノだ。
「…凄い。このピアノの旋律…
儚くて、でも力強いメロディライン…。まるで目の前で聴いてるみたいに、胸に 訴えかけてくる。
これって…Lioが…。いや、エリさん御本人が弾かれているんでしょうか」
「うん。そうだと思うよ」
「……声も、ぜんぜん違う。ちょっと、余裕がなくて、綺麗ってよりも可愛い感じ。完璧じゃなくて、なんつーか、未完成って感じだけど、なんか俺…ずっと聴いてたいって思う」
(この感じ…。俺が施設にいたときに、理と聴いた、えりりんの声だ)
「若かったからね。この時の彼女は、まだまだ発展途上だったんだよ。
とにかく。これで信じてくれた?俺が妄想癖の強い奴じゃないってこと!」
パソコンを閉じ、壮五に向け笑みを浮かべる。すると彼は、土下座でもいそうな勢いで謝り倒すのだった。
「はは。良かった。
これ、10年間 誰にも聴かせた事なかったんだけど。蔵出しした甲斐があったよ」
環も、こくんと頷いた。相変わらず、唇はとがったままだったが。
「訊いてもいいかな?
俺にさっきあんな質問をしたってことは、壮五くんも彼女の所在は知らないんだよね」
「と、当然です!僕なんて、ただのいちファンに過ぎませんので…。
Lioは今でこそ少しずつ人々の記憶から薄れつつありますけど、熱心な業界人は 未だに見つけ出そうとしているみたいです。
そんな人達でさえ、手掛かりを掴めていないので…その…言いにくいのですが…」
「気を遣わないで。俺も分かってるよ。
きっと、そう簡単に見つけられないってことは」
「なぁなぁ、バンちゃん」
しゅんとした壮五の隣に座る環が、首を傾げて俺の名を呼んだ。
そして、清々しいくらい遠慮なく 質問を投げ掛けてくる。
「どっちから告った?どんくらいの時間 恋人だった?あと、なんで別れたの?」
「う……」
俺は助け舟を求めるつもりで、壮五を見やる。
しかし、彼の瞳はキラキラとした光を放っていて。助け舟を出してくれるどころか、環の用意した船に乗船していた。