第74章 高校生の時の、俺の彼女
何回。何十回。何百回と聴いた、彼女の歌声。
間違えるはずなどない。これは、エリが俺に贈った曲だ。
彼女が最後に、俺にくれたものだ…。
まるで、プロボクサーのストレートを横っ面に叩き込まれた心地だった。しかも、不意打ちで。
強烈な目眩を覚え、俺は絞るように呟いていた。
「…Lio…、エリ…。まさか、そんな」
「!!」
無意識的に零した小さな囁きを、拾った環。彼も、俺ほどではないにしろ動揺の色を見せた。
「バン、ちゃん…。え、いま、なんつった?いま、エリって…」
「あ、いや…」
「??」
混乱する俺。動揺した環。
壮五は、ただ首を傾げて真顔になる俺達を眺めていた。そして、2人の顔を交互に見て口を開く。
「えっと…2人とも? 環くん?」
「は…っ!な、何でもない!何でもないから!ってか、俺、なんか言った?もうぜんっぜん覚えてねー!」
環は、ぶんぶんと首を振った。まるで、口にしてはいけない事を言ってしまった直後の子供のようだった。
明らかに不自然な言動だったのだが、それを追求する余裕など今の俺にはない。
ただ、口元を手で覆って、溢れ出そうになる何かを抑え込むのに必死だった。
「万理さんも、大丈夫ですか?顔色が悪いです…
あの、もしかして…Lioの事、何かご存知なんですか?彼女の歌を聴いた直後に、様子がおかしくなったような気が…」
壮五の言葉に、つい口を覆っていた手をどかしてしまった。
これがいけなかった。頭が真っ白になっていた俺は、普段なら絶対に言わない言葉を口にしてしまう。
こんな話、彼らに聞かせてしまうなんて。本当にどうかしている。しかし、溢れ出した言葉は止まらなかった。
「えっ と…付き合ってた…。たぶん」