第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
車は高速を降り、さらに道を行く。
あと少し走れば、私の家が見えてくる所まで来た。
社長は、前を見据えて言う。
「成果を手にする男の後ろには、必ず賢い女がいるものだ。
だから、これからもお前がTRIGGERを導け。いいな?」
『……はい!』
嬉しくない、わけがない。
言葉の綾でも何でもなく、きっとTRIGGERは彼の宝物みたいな存在。
そんな大切な宝物を、一緒に守り育てていく権利を 私にもくれたのだ。
心が踊らない、わけがない。
「……なんだ、ニヤニヤするな。気味が悪い!」
『あはは。不快にさせてしまいましたか。
でしたら、不快にさせついでに 私の質問にも答えてもらえますか?』
私は、急に不機嫌顔を作った隣の男を見やり問う。
『結局、今日はどうしてゴルフに誘って下さって。美味しいランチに、さらにはプレゼントまで与えてくれたんです?』
「……まぁ、強いて言えば…
ほんの、気まぐれだ」
うじうじと悩む私に、百は言った。
物事を、難しく考えないで。
固定観念を全部取っ払って、考えてみて。
そしたらきっと、優しい正解が見えて来るから。
忙しい身の上の社長が、私などに時間を割くはずがない。
いつもは厳しい社長が、私などに優しくするはずがない。
そんな固定観念を取っ払い、頭を真っ白にして考えてみる。
『ふふ、優しい正解。か…』
私は、長時間のドライブで凝り固まった筋肉をほぐす為、体を思い切り伸ばす。
とりあえず、早急に楽に伝えなければ。
龍之介に一杯 奢れ、と。
私の勘違いでなければ、どうやら先日の “ 賭け ” は 龍之介の勝ちらしいから。