第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
Lioを、TRIGGERの飛躍の為に使おうと思ったのが事実でもいい。
ただ
Lioを探し始めたきっかけは、息子の想い人を見つけてやりたいという親心であってくれたらいいのに。
そんなのは多分、身勝手で甘い考えなのだろう。
「大体 私は今でも、お前がメンバーと親しく接する事を良く思ってない。
中崎。最近、奴らと少し距離を詰め過ぎじゃないか?」
『ははは』
「笑って誤魔化すんじゃない!」
これは、口が裂けても言えないな。
天と龍之介に、女であるとバレたこと。あまつさえ、体を結んだ事実も…
言い訳をするわけではないが、それらは悪い影響ばかりではない。あの2人は、最近明らかに表現の幅が増えたと もっぱらの評判だ。
恋や情交は、人を良くもするし 駄目にもする。
彼らの場合には、上手く前者に分類されてくれたということ。
私にとっては、この上ない喜びだ。
「今は、仕事の話はよそう」
『!!
社長でも、仕事を考えない時間を設けたくなる事があるんですね』
「今から私がする質問に、お前も 仕事事由抜きで答えろ」
私の言葉には返答なしで、彼は強い声で言った。その真剣みを孕んだ声色は、こちらの緊張を煽る。
「お前は、楽の事を 愛しているか」
『……私は…
TRIGGERの事を、愛しています』
社長は、私の瞳を覗き込むように見た後 落とすように告げる。
「そうか。
その言葉だけで、十分だ」
きっと、さきの短い言葉の中に、全ての意味を見出してくれたのだろう。
私も、そしてLioも、決して八乙女楽を選ばない事を。