第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
帰りの車中。自宅に送ってくれるという彼と、再び話をする時間が訪れる。
しかし、ずっと感じていた気不味さは、もうほとんどない。
それはきっと今日一日彼と過ごし、その本心が垣間見えたからであろう。
憶測を、確信に変えたくて。私は彼に問い掛ける。
『ゴルフなら、楽も出来るじゃないですか。
今日は、どうしてわざわざ私を誘ってくれたのですか?』
「……」
『もしや、息子に相手にして貰えないから、私を選んだんですか?』
「……」
『もし お寂しいなら、私の事を娘と思ってくれてかまいませんよ』
「こんな男みたいな娘はお断りだ」
肝心な質問には、答えてくれない。
何となく分かっていた事だ。彼は、私がどれほど問い質したところで、本心を言葉にしてはくれないのだろう。
頭の中に、百が浮かんだ。そして その脳内百が、私を応援する。
“ 頑張れエリちゃん!パパの本心を聞き出すんだ!諦めないで!
きっと君の予想は間違ってない。後は、パパから気持ちを聞き出して、答え合わせをするだけだよ ”
なんて。
彼なら、こんな感じで私を励ますだろうか。
私は脳内百に お礼を言ってから、再度 隣の男を呼ぶ。
『パパ』
「は?」
……ミスった。
これはもう、完全にやらかした。
先生の事を、お母さんと呼んでしまった幼少の記憶が蘇る。こんなに恥ずかしい気持ちは、どれくらいぶりだろう。
私が魔法使いなら、この10秒間の記憶を社長から消すのに…。
おそらく真っ赤に染まっているであろう顔を両手で押さえ、私は俯いた。
脳内百に、百が社長の事をパパ、パパと呼ぶから、それが移ってしまったではないか!と八つ当たりをしてみる。
すると脳内の彼は、人のせいにしないでよぉ!とぷりぷり怒り出すのであった。