第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
社長の姿が 曲がり角の向こうへ消えたのを確認してから、私はぐるんと百へ向き直る。
『百!見た!?聞いた!?今日の社長、絶対におかしいよね!ずっと変なの!
私に運転手もさせないで、ゴルフを教えてくれたり!それに加えて私の為にクラブを選ぶ!?しかも、鉄板焼きでランチ!?
変だって、おかしいって!何がどうなってるのか意味が分からないっ』
「はは、まぁまぁ落ち着いて。オレには なんとなーくだけど、パパさんが何を考えてるのか分かったよ?」
詰め寄られた百は、眉尻を下げて ヘラっと笑った。そんな可愛らしい笑顔に、きゅんとしている場合ではない。
百は、いま何と言った?
社長の考えている事が分かった? 私がいくら時間を費やして思考しても分からなかったのに?
『お、教えて百!社長の考えが本当に分かったんなら!私には、どれだけ考えても分からなかった…』
「うーーん……。
ごめん!エリちゃん!やっぱりオレの口から言うより、エリちゃんが自分で答えに行き着くべきだと思う」
『………』
「あぁっ!そんなに悲しそうな顔しないで!ほら、ね?
あ!じゃあ、ヒントあげちゃう!
きっとエリちゃんは、何でも難しく考え過ぎなんだよ。物事は、もっと単純に明快です!
あの人は、絶対にあんな事しない。この人は、ああいう性格だからそんな事思わない。
一度、そういう固定観念みたいなのを全部取っ払って考えてみて?
そしたらきっと、優しい正解が見えて来るから」
百は華麗に、バチっと右目を瞑った。
私は貰った言葉に、しっかりと頷く。すると彼は、笑顔で頭を撫でてくれるのだった。
ほどなくして、社長がこの場へ戻って来た。そして まだ姿のあった百を見つけるやいなや、またも怒声を飛ばす。
百は、そんな社長をなだめてから 退場する事となった。またしても、意味ありげなウィンクを私に残して。