第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
ゴルフには、セットになっている物がある。それは、飯と風呂。
もう一度言おう。ゴルフ、飯、風呂。この3つは、切っても切り離せない関係にあるのだ。
『……私も、男風呂に…』
「うふ、オレが背中 流してあげるね♡」
「早く女風呂に行け!!」
社長は、ビシ!っと女風呂の暖簾を指差した。
『し、しかし』
「はぁ…。百は、とっくに知っているんだろう」
「パパ、やっぱり気付いてたんだ?オレが、春人ちゃんの性別分かってたこと」
「見てれば分かる」
流石と言うか、なんと言うか…。
社長は、分かっていたのだ。百が、私を女であると知っていたこと。
さらに、その事に百も気付いていた。
2人の表面は、似ても似つかないが。
自分の腹の底を、他人には簡単に見せないよう立ち振る舞っているところが似ているような気がする。
「私も百も、お前が女だと知っているんだ。男装する必要もないだろう」
『そう、ですか?分かりました。
では、お言葉に甘えて…私は女湯に入って来ますね』
「いってらっしゃーい!また後でね」
「……あぁそうか、私は お前と風呂に入らなければならないのか」はぁ
「うふ、背中流してあげるね?パーパ♡」
涼しい中でのゴルフだったので、汗はさほどかいていない。それでも やはり風呂に浸かると、身体がほぐれる心地がした。
なんだか気疲れをしてしまって、体力ではなく精神の方が磨り減っているのだが。
私は、広い湯船で手足をのびのびと伸ばして 男湯の方を見やる。
社長と百は、裸同士で一体なにを語らうのだろうか…
「やはり、お前とゴルフなどするんじゃなかった」
「ひっどいなぁ。オレはめっちゃくちゃ楽しかったのに」
「ふん」
「そんな冷たい事言わないでさ、また一緒にやろうよ!ね、いいでしょー?」
「……次にプレイする時、本気を出すなら…生きてる内にあと1回くらいは付き合ってやってもいい」
「!!
そっか。そっちもバレちゃってたのかぁ」
「私を、そのへんのゴルフを分かっていない連中と同じにするな。
わざとバンカーを狙ったことくらい、簡単に分かる」
「あはは、了解!じゃ、次はバリバリ本気モードでお相手するね!パパさん」