第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
そして、あっという間に18ホール。ここが、最終ホールである。
ここまでの打数は、こうだ。
社長と百が、75で並んでいる。ちなみに私は既に84。仮にこのホールで、ホールインワンを決めたとしても勝てる見込みはない。
ゴルフは、実に厳しいスポーツだ。漫画やアニメとは違い、ホールインワンなど そうホイホイ出るものではない。
『このホールで気をつけるべきは、奥にある大きなバンカーですね』
「無難に、左右のどちらかへ調節するべきだろうな」
「オレは、力技でゴリ押しちゃおう!狙うは、直球 真正面!」
私には逆転のチャンスはないので、堅実にいこう。社長の案に乗っかり、ボールをやや右へ逸らしてバンカーを避ける。
続く社長は、左の方向を狙った。
3打者の百は、宣言通りに 狙うはど真ん中。力技で、バンカー越えを狙う。
当たりは上々。相変わらず綺麗な捻転で、しっかりとボールへ全体重を乗せた。これは、もしかしたら本当にバンカーを越えられるかもしれない。
もしそうなれば、百の勝利は濃厚となるが…
私達は、彼の打ち上げたボールの行方を見守る。
『これは…越えるかも!』
「いや…少し短い」
「ノーーー!頑張れっ、オレのボール!もうちょいっ、もうちょい伸びて!風よ吹けー!」
ぽすん と小さな砂埃を巻き上げて、ボールはバンカーへと落下したのだった。
その結果、百は社長に一歩及ばずのフィニッシュとなった。
打数で言うと、社長が79、百が81、私が89打。
やはり、いくら気合を入れたとて 急に上手くなるはずなどなかった。
臨時ボーナスなど、夢のまた夢である。
社長も百も、きっと接待に次ぐ接待で、ここまで腕を上げたのであろう。勝負には負けてしまったが、私も2人のように もっともっと腕を磨かねば。その気概をもらえただけでも、この勝負に意味はあった。