第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
「足を肩幅に開け」
『え』
「ボサッとするな!早く言われた通りにしないか!」
『は、はい!』
社長は私の後ろに立ち、パターで足をコンコンと突いてきた。突然 出現した先生を前に、焦りながら私は言われた通りに体を動かす。
そんな様子を、百は ぱちくりとした目で見つめていた。
(え?なんで?なんでパパが、あの八乙女パパが、懇切丁寧 エリちゃんにゴルフ教えてあげてるわけ?自分が肩慣らししたくてエリちゃんをわざわざ誘い出したんだと思ってたのに…
っていうか、いいな!オレだってエリちゃんに手取り足取り色々と教えてあげたいのに!ちょっとパパ!オレにそのポジション、早急に譲ってよ!)
「パパーー!代わってお願い!!」
「うるさいぞ百!」急になんだ!
百の考えてる事が、もう透け透けだった。
とにもかくにも、私は何とかポケットにボールを入れる事に成功する。
良かった。無事に入って…。
社長にわざわざ指導してもらっておいて、カップイン出来なければどうしようかと思った。
「……読みも力加減も姿勢も問題なかったが、ギリギリだったな」
『す、すみません』
「百はどう思う?」
「うーん…本人の技術に問題ないなら、道具の方が難ありなのかも」
「やはりな。おい中崎。この後、ショップにお前のクラブを見に行く。いいな」
『え、あ…はい』
それだけ言うと、彼は再びボールへ向き合う。そして、相変わらず素早くショットを決めると、そのボールは見事にチップインを決めるのであった。
私と百は、顔を見合わせる。
百も、社長の普段とは明らかに異なる様子を目の当たりにして、驚きを隠せないようだった。