第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
どうやら百のボールは、私と社長が打ったボールの間に落ちたらしい。つまり、今のところ私がビリという事だ。しかし、勝負はまだまだこれからである。
私達は、百の運転するカートに乗って、ボールの落下地点へと向かう。
「普段は、どれくらいで周るんだ」
『調子が良い時は、90を叩かないくらいでしょうか』
「そうか…」
ハンドルを握る百が、ぐりんと私達を振り返る。
「80代って凄いね!さっすが春人ちゃん!接待慣れって奴かな?」
「百!前を見ろ!」
次の打順。私はなんとかグリーンに乗せたものの、パッドが上手く行かず、社長や百とは1打の差が付いてしまった。
次のホール。
グリーンにオンするまでは、順調に行ったのだが やはりパッドでつまずいてしまうのだった。
続く第3ホール。パターを構える私に、社長が近付いてくる。
「中崎」
『はい』
社長に名を呼ばれ、顔を上げる。
「お前、パターが下手だな」
『う…、実は、少し苦手です』
「ちょっとパパさん!ズバっと言い過ぎ!オレやパパと、そう変わらないじゃん」
「実際、私と百より、1ホールにつき1打多く叩いているだろう。それは、パターが安定していないせいだ」
「でも、春人ちゃん十分上手いよ!」
「百。お前はそれでもトップアイドルか?現状がそれなりに良いからと、そこで満足していたら それ以上の高みは目指せないぞ!」
「ぶーぶー、今はアイドル関係ないもーん」
私は、プロゴルファーでも目指すのだろうか…。そう思えるくらい、社長の目は本気だった。