第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
土日のゴルフは嫌いだ。
まず、値段が平日とは段違いだから。それに、混んでいる場合も多い。次のホールで 前にいる客がつかえていたり、後ろの客がこちらに追いついてしまって気が急いたり。
とにかく、ゆったりとプレイ出来ない条件が多過ぎる。
しかし。ここは、その辺のゴルフ場とは違うらしい。
『…随分と空いていますね』
「そうだろう。ここは、庶民が来られるような場所じゃないからな」
ふふん。と、自慢気に鼻を鳴らした社長。なんだか嬉しそうで何よりだ。
それから、さらに続ける。
「予約客も、最小限しか取らん。前の客が、全ホールを回り終えてから次の客がスタートする。
だから他の客に気を使う事なく、ゆっくりとプレイに集中出来るというわけだ」
『なるほど…』
ゆっくりと、プレイに集中…。
……社長と?
目の前にいる、何を考えているのか分からない、常にしかめ面の男と?
いやいや。ゆっくりも集中も 出来る気がしない。
彼に失礼なのは承知だが、正直キツイ!
あぁせめて、もう1人。一緒にコースを回ってくれる人間がいれば。
2人きりになる この現状さえ回避出来るならば、贅沢は言うまい。誰でもいい。
…まぁ、もし少しばかりの贅沢を言う事が許されるのなら、明るい人物がいい。こちらが黙っていても勝手に場を盛り上げてくれて、大きな声で話すのがデフォルトのような人間だと嬉しい。
なんて、淡い妄想を抱いてみる。が、タイミング良くそんな人物が降臨するはずもない。
「設備も整っているし、サービスも良い。だから、それなりに値段は張るがな。その分、若い奴らが寄り付かなくなる。
うるさいのは、かなわんからな。ここは、いつも静かで良」
「おーーっと!こんな場所で会えるなんて!なにか運命的なモノを感じちゃいますぞ!?」
社長が静かだと絶賛した途端、この場所の静寂が破られた。見事なまでのタイミングで、この場に現れたのは…