第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
『……』
(あー、良かった)
どんな怒声を浴びせられるのか。はたまた、どんな突拍子も無い依頼をされるとかとビクついていたのが馬鹿みたいだ。
社長は、ただ付き人を所望しただけだった。
私は軽い足取りで、退社の為 廊下を行く。そして、駐車場へ繋がる扉を押した。
「お!早かったな!」
『わ!
び、びっくりした…』
扉を開くや否や、もう帰ったはずの彼らが わっと私を取り囲んだ。
「親父の奴、怒ってたか?鬱陶しい説教食らったんだろ?」
「違うってば!春人くんは何か、ご褒美もらったんだよね!」
「普通に考えて、仕事関係の依頼でしょ」
『……次の土曜、ゴルフのキャディを任されました』
3人は、顔を見合わせる。そして、天が得意げな表情を浮かべた。龍之介は少しがっかりしているだろうか?楽は、小さく舌を打った。
「っチ、なんだよ。じゃあ天のが当たりか」
「ふふ、当然」
「でも、春人くんが怒られた訳じゃなくて良かったよ」
にっこり笑った龍之介を見て、やっぱり彼は優しいなぁ なんて思っていたのに。私は視界の端で、何やら不穏な動きを察知する。
楽が懐から財布を取り出して、天に御札を手渡したのだ。
『ちょ、人を使って賭け事ですか。感心しませんね』
「ご、ごめんね。俺は止めたんだよ…?」
『じゃあもし私が社長にご褒美もらって帰って来たら、龍には何の得も無かったんですか?』
「ううん!その時は、楽が一杯奢ってくれるって約束だったんだ」
『龍。それはしっかり一枚噛んでますよ』