第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
エレベーターの前で4人と別れる。彼らは下へ。私は上へと向かった。
『……』
(なんだか この感じ、懐かしいな)
最近こそ、社長からの急な呼び出しは減ったが。TRIGGERのプロデューサーに就任したばかりの頃は、呼び出しはザラだった。
社長が私の仕事部屋の前まで来てドアを開け、顔を覗かせ指をちょいちょいと動かすのだ。それが、早急に社長室へ来い。の意味を指していた。
そして、大抵はお叱りを受ける羽目に合った。当初は方向性の違いから、彼との衝突が頻発していたのだ。
それを考えると、それなりに私の自由がまかり通っている現状が奇跡のように思える。
『失礼します』
ノックをし、返事を確認してからノブを押す。
今ではすっかり見慣れてしまった社長室。そして見慣れた椅子に、彼は掛けていた。
少しだけドキドキしながら、問い掛ける。
『お呼びですか?』
「呼んだからお前はここに来たんだろう」
『え…っと、まぁ そうなんですが』
「いや、違う。そうじゃない…」
『??』
額に手を当て、顔を背ける社長。
まるで、強い口調で言ってしまった言葉を 取り消したいように見えた。
『それで、御用件は…』
「……今週の土曜、スケジュールはどうなってる」
『少々お待ち下さい。
……楽は、ドラマの撮影が入っていますね。現場は近くの自然公園です。天は、雑誌の取材が。あらかじめ質問の内容等は確認しています。龍は』
「誰がTRIGGERの予定を聞いたんだ!」
『え』
「私が聞いたのは、お前の予定だ」
『……オ、オフです』
「それは知っている!」
『……』
(えぇ〜〜…)
「まったく…。皆まで説明しないと分からないのか。
だから…土曜日の休みに、どこかに行く予定はないのかと聞いている」
い、一体 何なんだ?
会話をする際は、流れの先を読む癖が付いている私だが。彼の目論見も、この会話の終着点も、読めなさ過ぎて頭が混乱する。
とにかく、される質問に答えを返すので必死だ。
『特に予定は、ありませんが』
「そうか。では、ゴルフに行く。お前はそれに付き合え」