第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
『お待たせしました。では、帰りましょうか』
私がパソコンのスイッチを落とすと、ソファに腰を下ろしていたTRIGGERメンバーは立ち上がる。
4人揃って、社用車が停めてある駐車場へと移動するのだ。
と、その時。ノックと共に姉鷺が訪ねて来た。
「はーい、今日の送迎はアタシが請け負うわよ。車のキー貸して」
私達は、揃って首を傾げる。
接待や 何かしらのスケジュールが私に入っていない限り、彼らの送迎は私の役目だから。
だが今日は、特に思い当たる節がない。
私は差し出された手に、チャリ と鍵を乗せる。すると、姉鷺はニヤリと笑って言った。
「社長がお呼びよ」
『え…』
帰り際に、急呼び出しとは。このパターンは、それなりに珍しい。
いつも彼が私に用がある時は、姉鷺を通して指示を出す。もしくは、メール等であらかじめ要件を伝えてくるケースがほとんどだ。
うーーん と顎に手を当て考える私に、楽が揶揄うように言う。まるで、これから先生に怒られるクラスメイトをイジる小学生だ。
「はは。何やったんだ?」
『…正直、心当たりがあり過ぎて』
「キミ、どうして怒られる前提なの。そんなに日頃の行いが悪いわけ?」
「春人くんの 日頃の行いが悪いわけないだろ?
あっ!もしかしたら社長は、いつも頑張ってる君に ご褒美があげたくなったんじゃないかな?」
人差し指を立て、名探偵よろしく自信満々に推理する龍之介。そんな彼に、姉鷺が冷静に突っ込む。
「ご褒美って何よ。具体的には?」
「そうですね、例えば…
一緒に楽しい場所へ遊びに行こうよ!とか、一緒に美味しいもの食べようよ!とか、欲しい物をプレゼントしてあげるよ!とか…ですかね?」
『それ、あの社長が実行するんですか?』
長い沈黙。
私達は、各々の脳内で想像した。あの仏頂面の社長が、笑顔でそう告げる姿を。
……5人は、誰からともなく吹き出した。