第72章 綺麗じゃない愛だって構わない
その日、俺は夢を見た。
ファンタジーな世界観で構成された その夢の主人公は、ドラゴンだ。
獰猛で、でも臆病。黄金色の鱗で覆われた大きな身体を持つそのドラゴン。
大きな爪と牙を持っていて、口からは火を噴く乱暴な一面もあるものの。その爪と牙で人間達を傷付ける事がないよう、入り江に隠れ住む優しい奴だった。
そんなドラゴンだけれど、本心では寂しくて。誰かに構って欲しくて。
でも誰かを傷付けるのも怖くて、やっぱり外には出られない。
そんな彼の元に ある日、勇ましくも美しい女戦士が会いに来るんだ。
そして彼女は笑って、ドラゴンに言う。
『見つけた。これからは、私が一緒にいてあげるから。
もう自分を隠さないで。だって、その激しさも優しさも、全部ひっくるめて、貴方なんだから。
だから、たまには外で大暴れしてみても良いんじゃない?
何があっても、私は貴方の側を離れないよ』
ドラゴンは、愛おしそうに顔を寄せる。
彼女もまた、彼の顔を両手で包み込んで 額を合わせた。
ドラゴンは、幸せそうだった…
『……ゅう…、龍…』
「ん……エリ…ありが とう」
『龍。そろそろ起きて下さい。
もしかして、寝ぼけてますか?私、御礼を言われるような事してないですよね…?』
「あれ…、なんで、俺…ありがとうって、言ったんだろ…」
『ふふ、やっぱり寝ぼけてる』
気怠さを感じながらも、なんとか上半身を起こす。
そして彼女を見やれば、もうすっかりエリは春人になっていた。
「…あはは。君の声が目覚まし代わりだなんて。すごく贅沢だ」
『素敵なジョークを言ってないで、早く服を着た方がいいんじゃないですか?』
エリの言葉を受け、毛布の中を確認する。俺の体は、全くもって何も纏っていなかった。
さすがに恥ずかしくなって、慌てて服を探すのだった。