第72章 綺麗じゃない愛だって構わない
龍之介は、大きくした瞳で私を見据えた。
「驚いた…。君は本当に 俺達の事、よく見てるんだな」
『ふふ。まぁ、それが私の仕事だから。
って、いう理由だけじゃ…もう ないんだろうね。きっと』
照れを隠すように、人差し指で頬を掻く。そんな私を見て、彼は笑った。
その嬉しそうな笑顔に苦笑を返し、続ける。
『龍の中に住む獣は、どんな見た目をしているんだろう』
「へぇ。見てみたいんだ?」
彼の瞳は どこなく挑発的な色を孕み、口角は僅かに吊り上がる。あまり見慣れない龍之介のニヒルな笑みに、私の心臓はどきりと脈打った。
『えっと…見てみたいし 知りたいと思うよ』
「…きっと、鋭い爪と牙を持っていて…大きな口からは、火を噴くんだ」
『へぇ。それって、まるでドラゴンだね』
「…龍か。きっと、そんな良いもんじゃない。誰もが目を背けたくなるぐらい、醜悪な見た目をしているよ」
『でもきっと、心は優しいんだろうね。貴方の中に住んでいるんだから』
龍之介は、さぁどうだろう と首を傾げる。
「正体は、君のその目で確かめて」
龍之介は 耳元に唇を寄せ、囁くように甘く告げた。
私は、黙って頷く。すると龍之介は、頬に2つ3つと 柔らかな口付けを落とす。その唇が、微かに震えている事に気が付いた。
『龍…?怖いの?』
「……今から君に触れられると思うと、心臓が止まってしまいそうなんだ。
何度も何度も、夢の中で君を抱いた。妄想の中で君を汚した。俺が そんな事をしたのは、現実ではエリと繋がれないと思っていたから。
ねぇ、エリ。こんな情けなくて臆病な俺に、勇気をくれないか」
『もちろん。私は、どうしたらいい?』
「教えてくれるだけでいい。
君は、何が欲しい?
もしエリの求める物が、俺と同じ物だったなら…
きっと俺はそれだけで、最強になれるから」