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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第72章 綺麗じゃない愛だって構わない


*


『あ、えっと…そうだ、見てこれ。
龍の体を温めながらね、良いもの見つけんだよ』

「う……」


近くに置いていたそれに手を伸ばす。龍之介はそんな私を見ないよう、不自然に視線を遠くにやった。
こんな時でも私の肌を見ないように気を遣っているのだろう。相変わらず、律儀な男である。

私が手にしたのは、個包装の小さなチョコレート。


『スーツのポケットに入ってたんだー。べつに遭難してるわけじゃないから食料の心配はないけど、お腹空いてるでしょ?
だから、半分こしよう』

「ありがとう。でも、俺はお腹空いてないから。それはエリが食べて?」


パキ、と半分に割って渡そうとするも、龍之介はそれを受け取らない。
こうなった彼はいつも、意外なほどの頑固さを見せるのだ。


『…1人では食べない』

「どうして?それはもともと君の物じゃないか。本当に俺は大丈、ちょっ、あははっ、エリは強引だなぁ」


私は、龍之介の口にチョコレートをねじ込もうと奮闘してみる。しかし、力で彼に敵うはずもなく。あえなく断念した。
むすっとした表情で、私は2欠片ともを自分の口の中に放り込んだ。
その様子を、隣の男は満足げな笑みを浮かべながら見つめている。

心の中で “ 隙あり ” と呟いて、私は龍之介の上に乗っかった。動揺する暇も与えないよう、そのまま口付ける。


「っ!?」


龍之介の瞳が、驚きから揺れる。私は、瞳を閉じているから見えないが、気配で分かった。

口の中で溶け始めたチョコレートを、舌を使って龍之介の口へと運ぶ。唾液と混ざり合ったそれは とろりと向こう側へ移るが、すぐに龍之介が押し戻してくる。

そうやって 互いの口中へチョコを移動させ合う間に、いつしかそれは姿を消した。

残ったのは 甘い余韻と、2人の上がった息遣いだけ。

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