第72章 綺麗じゃない愛だって構わない
まずは、ありったけのカイロを開封する。それから裸同然の姿で、倒れ込んだ彼の元に駆け寄った。
息を白く曇らせながら、胸を上下させている龍之介。
『龍、龍…!大丈夫?返事して!』
「は…はぁ…、は」
意識が混濁しており、呼吸が浅い。そして、指先が凍ってしまったように冷たかった。
『っ、やっぱり…低体温症を起こしてるんだ』
とにかく、冷え切ってしまった身体を急いで温めなくてはいけない。龍之介の服を奪うように剥ぎ取って行く。そして私と同じ格好にしてから身体を毛布で包む。
激しく身体を動かせば、不整脈を起こしてしまう可能性がある。だからなるべく丁寧に、慎重に。
私も同じ毛布の中に潜り込み、温かくなって来たカイロを 龍之介の脇と足の付け根に当てがった。
彼の足先を、自分の足先で触れてみる。やはり、氷みたいに冷たかった。私は、自分の体温を龍之介に分け与えるように体全体を密着させる。
これが正しい処方だという確証はない。でも、何かせずにはいられなかった。
相変わらず意識がはっきりとしない様子の龍之介。私は彼の頭を胸元に引き寄せて、ぎゅうっと抱き締める。
『龍…、寝ちゃ駄目だよ、起きて…龍ってば…』
胸元に、微かに感じる龍之介の吐息。その弱々しい感触だけが、私をひどく安心させた。
神様が居ない事なんて、知っている。でも今は、何にだってどんなものにだって縋りたい気持ちだ。
『……お願い』
(私は、どうなったっていい。だから、龍だけは…彼だけは助けて…お願い!)
私は龍之介の頭を胸に抱き、涙の溜まった目で視線を辺りに投げた。
そしたら、見つけた。薪と薪の間に、落ちている小さな小箱。あれは…
『……神様って、いるのかもしれない』
紛う事なき、マッチだった。