第72章 綺麗じゃない愛だって構わない
とにかく、火を起こさなければ。しかし暖炉と薪はあるのに、マッチやライターがない。どうして私は、どちらも持って来なかったのだろう…。なんとも歯痒い思いだ。
それから、天や楽達に連絡もしないと。
私は自分のポケットに手を入れる。携帯電話とカイロを一緒に入れていたので、電源は落ちていなかった。
すぐさま天へ電話をかける。すると、ワンコールも呼び出し音が鳴らないうちに繋がった。
《もしもし!?大丈夫なの?》
『大丈夫。会えた。龍と、会えた』
寒さの為、ガチガチと歯が鳴りそうになるのを堪えて無事を伝える。
《そう…良かった…。
それで?今はどこにいるの?2人とも無事なんだよね》
『今は…多分、近くの山小屋。吹雪が止むまで、ここで休ませてもらう事にする。
私達は2人とも大丈』
大丈夫。そう伝えようとした時…
背後から、ドサリと 何かが崩れるような音がした。弾かれたように そちらを振り返ると、龍之介が地面に倒れ込んでいた。
『っ!?』
《もしもし?大丈夫?ねぇ、何かあったの?》
ここで天に、龍之介が倒れたなんて言えない。言ったところで、いらぬ心配を与えてしまうだけだ。
即座にそう判断した私は、一度 深く深呼吸をして気持ちを落ち着ける。そして、自分の服に手をかける。
『…大丈夫だよ。明日には、きっとそっちに帰れるから』
《……本当に?》
天の不安気な声を聞きながら、防寒具を脱ぎ、スーツの上下も脱いでいく。凍てつくような寒さが、私の身体を包んだ。
『本当に』
《2人で帰って来るんでしょう?》
『うん。必ず、2人で帰る。心配かけてごめんね』
《分かった…。信じるよ。
無事に再会出来る その時まで、お説教は待っててあげるから》
既に体に纏うものは、ショーツのみとなっていた。
私は瞳を閉じて、ありがとうと伝えてから電話を切ったのだった。