第72章 綺麗じゃない愛だって構わない
「は…、はぁ…っ、エリ…俺の事、信じてくれる?」
『え?なに…ごめん、よく、聞こえな』
「俺を、信じて!こっち!」
今度は、龍之介が私の腕を取った。そして、私が思っていた方向とは真逆へ歩き出す。
さっきまで、あんなに不安だったのに。それが嘘のように消え去っていた。
ただ、目の前にある この大きな背中について行けば大丈夫。そんな不思議な安心感が、私を満たしてた。
やがて、真っ白な視界の中に確かに何かが現れる。それは、小さな山小屋。
まるで奇跡のように、龍之介は私を安全な建物に導いたのだった。
私達は どちらからともなく小屋へとなだれ込み、急いで扉を閉める。
中は、当然のように無人。外ほどではないが、室内も気温はおそらくマイナスと思われる。
長らく人が訪れていないのか、少し埃っぽい匂いがした。
辺りにあるのは、ススが溜まったままの暖炉。壁に立て掛けられている斧。そして手作り感溢れる 小さな椅子とテーブル。それに大量の薪と、グレーの毛布が1枚だ。
空間の把握もそこそこに、私は龍之介に向き直る。彼の肩や頭に降り積もった雪を急いではらった。
『龍…大丈夫?あぁ、こんなに雪が積もって』
「エリもね。
はは…自分も雪まみれなのに、俺を気遣うのが先なんて…君はやっぱり優しいなぁ」
龍之介は弱々しく笑って、私の肩についた雪を落とした。
絶対に寒くてしんどいはずなのに、私を安心させようと笑顔を浮かべる龍之介の方が、優しい人だ。私は心の中で思った。