第71章 ピュイっ!
天は冷ややかに告げる。
「それにしても楽のヤッホー、見事に返って来なかったね」
「あぁ。おかしいな…。テレビとかでよく見るだろ?2回とか3回、やまびこが返ってくるシーン。あれをやってみたかったんだよ」
『やまびこという現象は、短くハッキリした音の方が起こりやすいらしいですよ』
「お前、相変わらず変な知識が豊富だよな」
私は、口の横に両手をあてがう。そして山の方へ顔を向け、ハッキリと短く叫ぶ。
『ヤッホ!』
—— ヤッホ
私のやまびこは、見事にこちらへ返って来た。
「へぇ…凄いじゃない」
「たしかにスゲェけど、天の反応が俺の時と違い過ぎて腹立つな。やまびこは、馬鹿な真似じゃなかったのか?」
「やまびこ面白いね!よし、俺もやってみよう!」
龍之介は、おもむろに自分の指を咥える。そして勢い良く空気を吹き込んだ。
「ピュイっ!」
— ピュイっ
ピュイ… ピュイ……
『す、凄い!やまびこしまくりでしたね!』
「はは。やった!」
「相変わらず龍の指笛は上手いな…」
「爆音だよね。以前、酔っ払った龍が個室居酒屋で指笛吹きまくって、静かにしてくれって怒られた記憶が蘇った」
「あったなぁ。んな事も…。個室だったのにな」
「個室だったのにね」
「ご、ごめんね。俺、その時のこと全然 記憶に無くて…」
申し訳なさそうに、頭に手をやる龍之介。
どうやら、彼の指笛の上手さはTRIGGERの中では共通認識されているらしい。
盛大に酔っ払った龍之介が、指笛を吹きながら島の踊りを披露する光景が目に浮かんだ。
そんなこんなで、山々の美しい景色を目一杯 堪能した私達。車中へと戻り、再びコテージへと向かうのであった。