第71章 ピュイっ!
ちょうど路肩に車を停められる場所があったので、私達は揃って車外に出る。そして、4人はガードレールに沿って横一列に並んだ。
下を覗けば、高所が苦手な私にとっては地獄のような光景が広がっていた。なるべく崖下は見ないようにして、ガードレールをしっかり掴む。
顔を上げれば、目の前に現れる 雄々しい山々。尾根には白い雪が降り積もり、緑とも黒とも言えない山肌とのコントラストが美しい。
しばらく私達は、一様にしてその光景に目を奪われた。
「ヤッホーー!」
「「『!!』」」ビク
急に叫んだ楽に、残りの3人は驚きの瞳を向ける。
「いや…こういう場所に来たら、やるだろ?普通」
「叫ぶ前には叫ぶって言ってくれない?キミのせいで心臓が飛び跳ねた」
「はは。実は それも狙ってた」
「…このガードレールの前でキミの背中を強く押したら、キミの心臓も飛び出ると思う?」
「やめろよ。何倍返しの報復なんだ、それ」
「もし飛び出したら、キミの心臓を掴んでそのまま あの山頂に飾ってあげる」
「だから怖いっつの!!やめろよ!」
私は、目の前の山を見つめて想像する。天が楽の心臓を山頂に飾るシーンを。
ただのホラーだった。
「ほらほら、こんなところで喧嘩してたら山の神様に怒られるよ?」
「へぇ。神様がいるの?
それならボクは、その山の神様に 楽がこれ以上、馬鹿な真似をしないようにお願いしようかな」
「なら俺は、天がもう少し冗談の通じる、遊び心ある男になるようにお願いするぜ」
「うーん…そのお願いは、たぶん叶えてもらえないと思うな」
龍之介が言うと、ようやく場が静寂を取り戻した。
私達は白い息を吐きながら、再び目の前の美しい景色に目をやるのだった。