第71章 ピュイっ!
「あんたの夢は、騎手になることか?違うだろ。トップアイドルになった俺らを、TRIGGERを拝む事だろうが。
ほら、分かったら さっさと行くぞ!」
さらに私を強く後ろへと引く楽。それを見たヴォーパルは、楽に向かって歯をガチガチと鳴らした。あからさまな攻撃色に、楽は腕まくりをしてヴォーパルに向き直る。
「何だ?お前、馬のくせに俺達から春人を取り上げようってのか?いいぜ、やってやる。来いよ!」
「ヒヒーーーン!!」
『おぉ…なんだか私、モテモテ気分です』
「この場合、実際にモテてるでしょ」
「もう、2人とも!言ってないで楽とヴォーパルを止めてくれ!」
私は、一触即発の2人の間に体を入れる。ヴォーパルの顔を両手でそっと包み込んだ。そして、彼の鼻筋に自らの額を こつんと合わせる。
『ヴォーパル…夢のような時間を、ありがとうございました。最高に気持ち良かったですよ。私の初めてが…貴方で良かったです』
「なぁ、やっぱりこいつワザとやってるよな?なぁ?」
「「否定出来ない…」」
『また会いに来ますよ。必ず。私も凄く寂しいですが…
それまで、さようなら。ヴォーパル』
—————
『……はぁ』
私はヴォーパルを想い、車内で溜息を吐いた。
「恋する乙女か。いい加減にシャキッとしろ」
「楽がヤキモチ妬いてる」
「はは。動物にヤキモチを妬くなんて、楽は可愛いな」
「や、妬いてねぇから…」
私達は、厩舎から少し離れたコテージへと移動中だ。運転し慣れていない雪道を、夜間に移動する事は避けたい。そういうわけで、今夜はそこで一泊の予定なのだ。
車を走らせて 数十分。大きなカーブに差し掛かった時、龍之介が窓の外を指差した。
「うわ…外の景色見て。凄い綺麗だ」