第71章 ピュイっ!
ビュウビュウと、風を切る。どんどん移ろう景色。下半身から伝わってくる、ヴォーパルが土を踏みしめる感触。
そのどれもが新鮮で、瞬きすら忘れた。
ちなみに、私は手綱を握っているだけ。何も操作はしていない。しかしながら、ヴォーパルは私が進みたい方向に駆けた。不思議だ。まるで私達の心が繋がっているみたい。言葉ひとつ交わしていないのに。人対人ですらないのに。以心伝心とは、こういう事をいうのだろう…
—————
「ヒヒーーーン!!」
『あぁヴォーパル!私も、貴方とサヨナラなんて耐えられない…!』
「お前らなぁ…いい加減に離れろよ!」
楽が、私のスーツを引っ張る。
私とヴォーパルは、ひと時のランデブーを終えて馬房へと戻っていた。しかし あの夢のような体験は、私達を強い絆で結んだ。ヴォーパルは私から離れようとせず、私も彼の顔をしっかりと抱きしめる。
すると、ヴォーパルは分厚い舌で私の顔や首筋をベロベロと舐め回した。
『あぁ…よだれが…
いや、いい!この際、よだれなんてどうでもいいです。よしよし、良い子ですね』
「春人くんとヴォーパルの間に、強い友情が芽生えたんだね」いい話だなぁ
「ボクには友情に見えないけど」どう見てもヴォーパルの顔に下心が溢れてる
別れを惜しみ過ぎている私達を見て、主人が真剣な顔で言う。
「こないにヴォーパルと相性が良い男も珍しいから…。あんさん、本気で騎手目指すか?はは!」
『え?はい』
「馬鹿野郎!即答すんな!」
楽は握り拳を作り、私の上にトン と置いた。